山梨県が日本一のぶどうの産地であるのは周知の事実である。甲府盆地特有の土壌や気候はぶどう栽培に適しており、そのぶどうを利用したワイン造りは古くから盛んであった。
昨今では若者のお酒離れもありアルコール消費量は年々下がる一方だが、その中でワインの消費量は徐々に増えている。これには海外産の低価格なワインの流入も要因の一つとして挙げられるが、日本国内における個性的な特徴を持つ新しいワイナリーの台頭も要因として挙げられるのではないだろうか。
それはもちろん、このワイン大国の山梨でも例外ではない。
今回はその中から他には無い強い「個性」を持ち、また、ワイン造りに対する熱い情熱に満ち溢れた2社をご紹介。
遊び心と「夢」に満ち溢れた、勝沼のワイナリー
まずご紹介するのは山梨県甲州市勝沼地区にあるワイナリー、「東夢ワイナリー」だ。
創業16年目を迎える東夢ワイナリーの圃場がある勝沼町の鳥居平は元々豊かなぶどう畑が生い茂るぶどう栽培の一等地であった。それが時代の流れによって荒れ果て、いわゆる耕作放棄地となっていた。
生まれ育った場所でもあるこの土地を、髙野英一現会長が定年退職後、鎌一つで開拓したことがすべての始まりだったそうだ。
「退職したばかりでほとんど雑木林だった土地を一から畑にするのはとても大変でした。それでも一人で作業しているうちに元同僚や、地域の方々が自然と手伝ってくれるようになっていったんです。退職したばかりの男達だったから、家にいた奥様方は退職後も外に居てくれたので嬉しかったのではないでしょうか。」
時折冗談も交えながら話す荒澤社長は幸せそうに過去を振り返っていた。
東夢ワイナリーで作られているブドウは、カベルネソーヴィニョン、メルロー、ピノノワールの3種類がメインで栽培されており、これらは本場フランスと同じ垣根栽培で栽培されている。
それも、「どうせ自分たちでやるなら、本場フランスと同じ方法でワインを作って飲み比べをしよう。」というのがきっかけだと言うところにも、大人ならではの遊び心に満ち溢れている。
そんな遊び心から飛び火し、東夢ワイナリーは世界に一つだけのお酒を開発する。それが東夢ワイナリーのイチオシ商品の「葡蘭酎」だ。
この葡蘭酎は、髙野会長の「葡萄で焼酎は作れないものか。」という創業前から温めていた想いから生まれたお酒である。甲州種100%で作られたワインとブランデーをブレンドして作られたこちらのお酒は、すっきりとした飲み口で飲みやすく、心にぽっと火を灯すような、東夢ワイナリーの熱い想いが宿ったお酒になっている。
山梨県にはいまだに後継者不足で人の手から離された農地がたくさんある。
「『人生の新たなステージに挑戦しようとする人たちの後押しが出来れば』と、ぶどう栽培やワイン造りを本気で取り組みたいという方々を受け入れてきた経緯があり、その一区切りとして、いま勝沼ワイン村を進めています。多くの人とぶどう栽培とワイン造りの喜びを共有したい。またこれらの活動によって、耕作放棄地となっている畑が蘇り、この地域が少しでも活性化されれば良いと思っています。」と荒澤社長は話す。
東夢ワイナリーはその当時から着々と成長してきた実績から、現在では新たにワイナリーの立ち上げを検討している人への支援も行っている。(今回別で取材させていただいたドメーヌヒデ代表の渋谷代表もかつてこの東夢ワイナリーで実際にワイン造りを学んだというのだから驚きだ)
勝沼ワイン村の敷地には東夢ワイナリーを含めて8社のワイナリーが集う予定。これらのワイナリーは実際に東夢ワイナリーでワイン造りを学んだ方々によるワイナリーだ。
勝沼ワイン村が活性化することで地域の雇用が生まれ、それらが合わさって地域貢献に繋がっていくのだと荒澤社長は話す。
東夢ワイナリーの名前の由来は、「東山梨郡から夢を探求していく」とのこと。
髙野会長一人の想いから、多くの人々を巻き込んで発展していく東夢ワイナリーは、名前の通り「夢」が溢れだすような熱い想いを持ったワイナリーであった。
東夢ワイナリー
ホームページ:http://toumuwinery.com/
住所:山梨県甲州市勝沼町勝沼2562-2
電話番号:0553-44-5535
勝沼ワイン村
ホームページ:https://katsunuma-winevillage.com
住所:山梨県甲州市勝沼町勝沼2561-11
電話番号:0553-34-8734
※現在新型コロナウイルスの感染拡大防止施策として営業を休止しております。
再開時期につきましては、日程が決まり次第お知らせいたします。
月とワインに魅せられて。南アルプスの新進気鋭のワイナリー
続いてご紹介するのは、南アルプス市にある「ドメーヌヒデ」だ。今年で創業5年目を迎える県内でも比較的新しいワイナリーだが、その醸造技術は高く、世界的に権威あるワインコンクールの「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)」でシルバーを受賞するなど、日本を代表する実力派ワイナリーだ。
「私は日本各地の土地に訪れて葡萄を育てるのに適した土地を探しました。その中でこの南アルプス市の土地は葡萄を育てるには絶好の条件だったのです。水はけが良く、野菜やお米が育たないような荒れた土地の方が葡萄はより美味しく育つのですが、その土壌がこの南アルプスにはありました。さらにここは年間の降水量も少なく、日が陰るのも早いなど、条件としては申し分無かったんです。ここなら必ず美味しいワインが造れる、そう確信しました。」
元々渋谷代表は臨床心理士という仕事に従事されており、最後はものづくりをして人生を終えたい、という想いで一念発起して現在のワイナリーを立ち上げたという。
「ワイン造りにしようと思ったきっかけは本当に単純でした。最初は花火職人でもいいかな、なんて思っていたんですが、やっぱりワインが好きだしワインを造ろうって。品種もマスカットベリーAのみにこだわって造っています。これも赤ワインが好きで、中でもベリーAが好きだったのと、ベリーAの果汁を絞って造ったジュースの桃花色に心を奪われれました。こんな綺麗な色があるのかと思ってとても印象的で、、、この色のままのワインをいつか造るのが僕の夢なんです。」と心を躍らせながら渋谷代表は話した。
ドメーヌヒデのワイン造りは月齢に合わせた収穫と醸造が基本。それもかつて渋谷代表が3,000本以上海を潜ったプロのダイバーだった時の経験からきている。海の中に潜りながら、月の引力によって何億トンもの海水が満ち引きしているのを体が感覚的に覚えているのだとか。
「潮の満ち引きが月の引力によって影響されるように、葡萄にも樹液が流れているので同じ影響を受けているんですね。事実、満ち潮の時と引き潮の時では収穫後の葡萄の水々しさも全然違います。これらはまだ科学的根拠によって証明されていませんが、今後必ず解明されてくると思います。」
ドメーヌヒデのワインは独特なネーミングのエチケット(ラベル)が多い。
「2019年の年末に出した『愛してる2019』なんかは最後まで名前を付けるのに悩みました。やはり名前もワインのレベルを左右しますから。エチケットもそうです。エチケットのレベルが高いとやはりワインもそのレベルに追いつかないといけなくなるのでよりワイン造りに努めようとしますよね。」
エチケットはすべてアーティストにお願いしているとの事、さらに必ず一度ワイナリーには来て頂いたうえで様々なインスピレーションを受け、作品として落とし込んでもらっているそうだ。アーティストさんによってインスピレーションを受けるところが違うらしく、それを感じるのがまた楽しいのだと渋谷代表は話す。
「ワインと人の心はほんとにそっくりです。快適な暮らしをしている人より厳しい環境で育った方のがシャキッとしている印象を受ける様に、ワインもやはり厳しい環境でこそ強く、美味しく育つんですね。ワイン造りはもちろん科学的に実施されるべきところはたくさんあります。それでもやはり、ワインの心に寄り添って育てていくことが必要だと思っています。『ワインは生き物』ですから。」
ワイン造りを単に「ワイン造り」の枠で捉えない。渋谷代表のワイン造りに対する愛情と情熱が、ドメーヌヒデの造るワインの深い味わいを生み出しているように感じた。
ドメーヌヒデ
ホームページ:https://www.domainehide.com/
住所:山梨県南アルプス市小笠原436-1
電話番号:090-7219-6183
TOPICS!
2020年5月以降の金曜夜19時より、TBS「爆報!THEフライデー」に、
ドメーヌヒデさんが出演予定とのことです!
※新型コロナウイルスの影響で延期となりました。放映日は5月以降になるとの事です。
~番外編~
今回の取材に同席出来なかった弊社のワイン好き社長(詳しくはHPのスタッフ紹介をご覧ください)の武原と、山梨で活躍している若きシェフ兼ソムリエの大澤司シェフと共に、実際に伺わせて頂いたワイナリーにて購入したおすすめワインを、弊社運営施設の「ゑびすや」のキッチンスペース(詳しくはこちら!)にて、大澤シェフお手製のワインに合うお料理を作っていただいてワイン座談会を実施した。
東夢ワイナリーでは一押し商品の「葡蘭酎」の白と新品種の葡萄で作られた「ビジュノワール 樽熟成2017」、珍しいカベルネソーヴィニョンで作られたロゼ「Cabernet Sauvignon Rose 2018 (ロゼ)」の三種類を購入。ドメーヌヒデでは「Laputa(ラピュータ)2017」と(同2016がデキャンタ―・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)でシルバーを受賞)「Vegan(ヴィ―ガン)2019」を購入。
今回は大澤シェフのお料理とのペアリングによるおすすめの順番でいただいた。
1本目:Cabernet Sauvignon Rose 2018 (ロゼ)
大澤シェフ「カベルネソーヴィニョンのロゼってとっても珍しいんです。カベルネ自体がかなり酸味が強いのですが、こちらのワインは程よい酸味とグレープフルーツのフルーティーな香りもしてとても飲みやすい仕上がりになってますね。」
社長「確かに女の子は好きだと思う!飲み口もさっぱりしてるし、このフルーティーな香りはきっと女性好みですね。」
大澤シェフ「なので今回はバーニャカウダと一緒に楽しんで頂ければ思って作りました。アンチョビやオリーブオイルの油分もこのワインならさらっと流してくれると思います。」
小林「女の子はきっとこういうペアリングが好きですよね。しかも、このワインはフルーティーで飲み口が優しいですし、エチケットも女性が好みそうなデザインなので女子会にも持っていきやすそうです!」
大澤シェフ「ロゼワインって結構ペアリングが難しいんですよ。ただこのワインみたいに酸味があってさっぱりしているロゼなら、割としっかりした味わいのご飯となら合わせやすいんですよね。」
2本目:Laputa(ラピュータ)2017
大澤シェフ「ラピュータは赤ワインの中でも若干軽口のワインになっていると思います。香りは出汁感がある感じなんですよね。ちょうど梅鰹出汁とかのような、飲めば飲むほど味わいが出てくる感じです。だから今回はじっくり赤ワインと煮込んだ手羽元の煮込みと合わせてみました。」
小林「私の好みにドンピシャです!でも煮込みの様なしっかりとした味わいのあるお料理にも負けないくらい、深い味わいがありますね。」
社長「ほんとだね、まおちゃん(小林)好みなのわかるー!このワインは満月の日にビン詰めしたんだね。そんなエピソードもロマンチックで素敵だよね。」
小林「ワイナリーで発酵中の樽なども見させてもらったんですが、収穫した際の月の暦も載っていたりと、とても面白かったです。取材のお返事を頂いたタイミングがちょうど満月の日だったのもすごくロマンチックでした笑 」
大澤シェフ「ラピュータはセニエ(血抜き法)という手法で作られているワインなのでより凝縮した味わいになってますね。これは発酵過程で果汁を抜き取る方法です。これによってより濃縮された味わいの赤ワインができるんです。ちなみにこの抜き取った方の果汁はロゼとして販売されることもありますね。ドメーヌヒデさんでは『shiro shiro pink(シロシロピンク)』という名前で出しているワインがそれです。こちらは主にラピュータから抜き取ったロゼの果汁のみで造られています。ラピュータに次ぐ人気の商品みたいですね。」
3本目:Vegan(ヴィ―ガン)2019
社長「私このワインすごく気になってたの!このラベルにある『信じられる愛はあるのか』っていうメッセージに惹かれちゃうよね。このワインを飲みながら考えてみようかなってなる笑 」
小林「この『月は葡萄に美しさ、星空はワインに優しさを与えてくれることを知りました。』っていうのもすごく素敵。」
大澤シェフ「ドメーヌヒデさんってワインのネーミングとかすごくメッセージ性があって面白いですよね。ヴィ―ガンも先ほどのラピュータと同じマスカットベリーAという品種を使ったワインなんですが、全然違った味わいになってます。こっちの方がベリーAらしい甘い味わいです。」
小林「たしかにこっちの方が少し優しい味がする!」
大澤シェフ「ヴィ―ガンはアルコール度数も低いですし、甘めな味わいなので女性におすすめですね。多分お酒の強い方とかだとごくごく飲めちゃうと思いますよ笑 」
社長「ほんとだ、私の場合、ジュース感覚で飲んじゃって酔っぱらいそう。」
小林「社長、ワインこぼれてますよ。」
4本目:ビジュノワール 樽熟成2017
大澤シェフ「これが最後のワインです。新品種のビジュノワールっていう葡萄を使った赤ワインですね。これは4本の中でフルボディの一番重めのワインです。これくらいヘビーなワインにはやっぱりしっかりした肉料理とかが合うと思います。今回は牛スネ肉を使ったパスタにしました。これだけがっつりした料理ならこのワインの味わいにも負けないと思います。」
社長「あーー!私の好きな重めワイン!結構飲みごたえありますね。」
大澤シェフ「このビジュノワールはフランス語で『黒い宝石』という意味があって、その名の通り色味が濃く、豊富なタンニンが特徴です。中でも今回飲むラベルは樽熟成も施しているのでかなり飲みごたえのある野性味あふれる味わいになっていると思います。
小林「野性味ある味わいだなんて、社長の好みに合いますね。」
社長「本当ね笑 樽熟成しているからか結構香りもしっかりしてるし、The 大人の味って感じ。紳士(なおじ様方)が夜景の見えるお部屋でガウン着て飲んでいるイメージ笑 」
大澤シェフ「重めのワインは割と大人の男性好きですよね笑 けれどこのワインは酸味も少ない方ですし、口当たりも優しいので比較的女性でも好きな方は多いかもしれないですね。」
5本目:葡蘭酎(白)
大澤シェフ「これは正直僕も初めて飲みます笑 まさにブランデーって香りですね。」
社長「香りがすごい!それに飲み口もかなりすっきりしてますね!」
大澤シェフ「この味わいだと、似てるものにイタリアで食後酒として飲まれているグラッパがありますね。」
小林「確かにそんな感じがします!それに飲み口がさらっとしてるからアルコール度数のわりに飲みやすいですね。」
社長「テキーラとかウォッカのショットみたいな感じで飲むのかな?!」
小林「社長。多分その発想はお酒が好きな社長の発想だと思いますよ笑 」
大澤シェフ「なので普通の人は食後とかに最後さっぱりさせる名目で飲むといいと思います。笑 それでもこれだけしっかりした香りと味わいがあるので、シンプルにロックにして、ウイスキー感覚で飲むのも良いと思います。」
社長「なるほど!香りを楽しむためにも確かにそうですね。」
楽しい夜は長いようで短い。
味わい深いワインと、ワインへの想い・情熱・知識をたっぷり吸収してほろ酔いになったところで本日の座談会は終了。
ワインの世界は奥深く、知れば知るほど味わい深い。
どのワインも作り手の愛情を目一杯受けて生まれたと思うと、より一層愛おしく感じられるのではないだろうか。
それはもちろん、ワイナリーの規模によるものではない。
今回ご紹介した2施設のワイナリーは、そういった愛情をより強く持ち、世の中にワインを生み出している「個性」と「愛情」に満ち溢れたワイナリーであった。
終わり